第七十六話
黄金色のシンメトリー〜7系統の風景

今年の秋の訪れは早かったように思う。鰯雲の空が現れ、何となく日差しの強さが落ち着いたなと9月の頭に感じたことを覚えている。
近くの霊園は木々に囲まれた静かな空間で、高い木も多く落ち着いた場所である。広葉樹がメインで四季の移り変わりを感じやすいが、10月の終わりには銀杏が色づき始めた。11月一週目の週末には真っ黄色に染まって秋空の青との対比が美しい光景が感じられるようになった。銀杏にも急ぎ足の者とのんびりした者とがいるようで、全身黄金色の姿に身を変える木々が次々に出てくる一方、第三週の週末になっても先端の方がチラチラと薄く黄色に染め始めた木々もある。この辺は人間と変わらない。いや、むしろ人間が自然の産物だと言えなくもないのだろう。
銀杏だけではない。第二週に箱根桃源台で紅葉を愛でて悦に入ったが、同じ頃に近所の紅葉も既に見頃を迎えている木々もあった。今年は何となく秋が長いように感じられて楽しい。

東京都の木は銀杏である。だからというわけではないのだろうが、何処も銀杏だらけである。街路が多いのだから当然だと言う声もあろうが、ならば鈴懸でも良かったはずだ。東京の木というのならその発展の起源の地として桜=ソメイヨシノでも良いのではと思うが、何でも東京の木を決めようということになった時に、銀杏、欅、桜のどれが良いかという公募を取ったら、銀杏が最も票数が多かったらしい。そんな逸話も、都民にとって銀杏がどれだけ身近な木であるか、という証となるように思うのだ。

私が最も好きな銀杏は東大本郷の銀杏 – 正門から安田講堂に続く並木と工学部前の大銀杏である。こちらについては、昨年のこの時期に当ブログで記した。ただこのコロナ禍で構内に入場制限がかかり、部外者は訪れることが出来なくなった。

一方、東京で最も有名な銀杏は?と問われれば、多くの人は神宮外苑の絵画館広場前から続く青山の銀杏並木と答えると思う。

土日になると雨にやられるとか別の予定が入るとかで、11月に入っても訪れることができなかったが、月末最後の日曜日にようやく青山まで足を向けることができた。快晴の空の下、青山一丁目の駅を上がると人だかりはあったものの、時間が早かったからか大混雑という程ではなかった。
並木道の入り口には緑が残るものの、やはり今年は季節が早かったのか並木の中間あたりは満開の姿というわけにはいかず、かなり散り始めていた。それでも絵画館方向に向かってシンメトリーに続く並木は美しく続いていた。道の先に絵画館の石造りを臨む光景が、また更に並木の美しさを引き立てるのだろう。
インバウンドと思わしき外国人の姿も多く見られたが、数年前の大混雑というほどではない。時期にしては程よく落ち着いて並木を歩くことができ、快晴の青空も手伝って気分の良い時間を過ごしたのである。

少し気になるのは、ここ数年で並木の葉の茂みが痩せてきているような気がすることだ。季節の終わりだからというのではなく、そもそもの葉の盛りが減ってきているのではないかということだ。ここの銀杏は先端に向かってトンガリ頭で伸びるけれど、以前は木の先端まで綺麗に葉がついていたのが、ここ数年で急激に弱くなっているように思う。このことを指摘する識者もいるようで、木の衰えが大きく進んでいるのは間違いないらしい。

美しい銀杏並木である。またこれだけ人を集める銀杏もそう多くないと思う。
神宮外苑再開発とかいう物騒な話もあるが、秋の東京の代表的な光景として、後代に維持されることを強く願いたい。

銀杏並木へ青山通りから
絵画館側から見るシンメトリー

金色の青山銀杏並木

●7系統 担当:広尾車庫
四谷三丁目〜信濃町〜北青山一丁目〜西麻布〜天現寺橋〜魚藍坂下〜泉岳寺前〜品川駅前
四谷と麻布、品川を結ぶ系統で、南西部を南北に結びます。現在は四谷から新宿駅まで足を伸ばした都バス「品97」系統が7系統のルートを走ります。鉄道空白地帯を走る系統で、外苑、青山墓地、高輪の住宅街など、緑の多い景色を走る楽しい道中となります。