最終話 東京タワーの灯り~都電8系統の風景

面影橋から目白台へ上がる途中、高田の階段坂を上り切ったところで振り返ると、開けた景色が目に入ってくる。そこはちょっとした高台で、手前に早稲田のマンション群、その向こうに牛込の住宅街と市谷の防衛省で、その建物の間に東京タワーを望むことができる。昼間はビル群に遠慮するようにそれ程目立たないけれど、夜はくっきりとそのオレンジ色の光を放っているのを見渡せる。仕事を早く終えた時は新宿から家まで歩くのを常としていて、その途中の面影橋から雑司が谷へ通ずるこの階段坂は、家を目の前にしての最後の登り。この高台で小休止する時に見える東京タワーの灯りは、不思議と疲れを癒す力を持っているようだ。

東京以外の地区に生まれ育った人なら、東京タワーは東京の風景そのものとなるだろうと思う。他の景色なら「何処ですか」ということもあろうけど、東京タワーだけは間違えようがない。観光に来ている小学生であっても「東京タワー!」とはしゃいでいる。六本木ヒルズの展望台に上がるのと、東京タワーの展望台に上がるのとでは全く意味合いが違う。ヒルズの展望台は単に景色を見る展望台でしかないが、東京タワーにはワクワク感と記憶が残る。それだけこの塔は象徴的なのだ。単に建物というだけでない。ここに来ると自然と自分が東京に居る、という気分になるということは、つまりはこの塔が街そのものを体現して立っていると言ってもいい筈だ。

丁度映画「三丁目の夕日」が上映されている。この映画の柱となる風景の一つが東京タワーでもあるけれど、現在に於いてもこの塔を見上げてホっとする感覚を持つのは、高度成長の時代から東京を背負っているという感覚が刷り込まれているからだと思うが、そしてまた、それとは別に「塔」というのが夢の持てる建造物ということもあるのではないか。

空に伸びるということは、天に続くと言う感覚をそこに感じるということ。天に続くというのは、感覚的にその先に「明るさ」であったり「希望がある」とか、言わば肯定的な意味をそこに重ねることでもある。そういう意味では、東京タワーは高度成長に続く日本を、エッフェル塔は19世紀のパリ万博を経て明るい未来を重ねた塔であったりなど、その時代を背負って天に続く塔だ。つまり、人は塔そのものに肯定的な明るさをそこに重ねるのではないかと思うのだ。

東京タワーが最も美しく見えるのは、夕方から夜にかけて赤羽橋交差点から見る姿だと思う。勿論高層ビルが建ち並ぶ今でも、あちこちからその美しさは見ることが出来るが、別の地区から来た人にとって頭に思い浮かべるその姿形はここからの姿ではないだろうか。

春から秋にかけての暖かい(暑い)時期で仕事に疲れた時、新宿のオフィス近くでビールを買って地下鉄に乗り、赤羽橋で降りることがある。で、芝公園で缶を開けてタワーを眺めながら一杯、ということになるのだが、そんな時、「東京タワーの灯り」には「人を元気にさせる力」があるのではないかと、ふと思う。東京タワーとは、まさにひたすら伸びてきた東京を背負ってきた塔であって、これからに夢を持たせてくれる塔。その存在は、東京スカイツリーが開業間近の今でも、そしてきっと開業してからも、見る人に何某かの癒しなり記憶なり支えなりを与え続けるのではないだろうか。

この東京を代表する灯りを見て、「また明日も東京で頑張ろうか」という気になるのだ。

赤羽橋に光る東京タワー
赤羽橋に光る東京タワー

●8系統 路線図 担当:広尾車庫
中目黒~渋谷橋~天現寺橋~古川橋~一ノ橋~赤羽橋~虎ノ門~桜田門~銀座四丁目~築地
山手線の外、中目黒から恵比寿、広尾、麻布と官庁街や銀座界隈を結ぶ路線です。赤羽橋を曲がって桜田通りに入った所で東京タワーを仰ぎ見ることになります。上の写真では、手前から入ってきて左前方に進む通りを走ります。山手と銀座を結んでいましたが、東京タワーと銀座を結ぶ路線でもありました。