第二十九話
大相撲の顔~29系統の風景

今、大相撲は秋場所が真っ盛りだ。両国の国技館前は幕内力士の幟できらびやか。秋の空に映えてとても賑やかな光景を形作っている。

親は嫌いだ嫌いだと言っていたが、何故か子供の頃、夕方になるといつもテレビでは大相撲が流されていた記憶がある。自分も何でこんなのが面白いのかと思っていたが、子供の頃の記憶というか刷り込みというのは恐ろしいもので、こうして大人になってみると相撲について一通りの解説が出来たりするのだから不思議なものだ。
デーモン小暮閣下のようなプロ級の知識ではないし、最近の力士はあまりよく知らないけれど、取り組みについてはそれなりに解説できる自信はある。

野球に於いて、例えば同じ三振でも空振り三振と見逃し三振でその意味が違うように、相撲の決まり手でも私なりに許せる負け方と許せない負け方がある。
相撲に於いてはその「許せない負け方」の筆頭が「寄り切り」だ。これが最近の相撲ではとても多くなったように思う。
大体「寄り切り」で勝負が着くというのは、勝つ方が強過ぎるのか負けた方が根性無いのか、投げられて負けられるのならまだしも、押し切られて土俵を割るなど、勝負士の風上にも置けぬ。精神論を否定する自分であるけれど、こと相撲に於いては別だ。追いつめられて土俵を割るなど、根性が無い。

残念ながら今の相撲界には寄り切りのような覇気というか執念というかの気概の無さが蔓延してしまっているのだろうか?
一人の力士が勝ち続ける事の立派さは認めるけれども、嘆かわしいのは他の力士の心意気があらゆる所で見えてこないことだ。

日本人だけではなく外国人にとっても相撲というのは興味の対象であるようで、外国人客も多くこの国技館まで来ているけれど、入場している人は皆無。みなチケットブースの前で価格表を見て尻込みをしてしまっている。そりゃ殆どの席が一万円を超えてくるとなれば、旅行客だとそんなに気軽に入れるものではない。二階の椅子席とかであれば4,000円弱から買えるけれど、二階の後ろの方から見たところで雰囲気など味わえるものか。見るならやっぱりマス席とかで見たいものだ。
これは日本の文化を知ってもらうとか興味を持ってもらう上ではとても勿体無い話で、例えば出国チケットを持っているとかの外国人には特別料金で観戦してもらうなどのサービスがあっても良いのではないか?テレビで見るのと生で見るのとでは持つ印象は全くもって違う筈で、「YOKOSO! JAPAN」とかいうキャンペーンを国がやっていて「日本に来てください」などと言っているのだから、相撲協会にはこのキャンペーンに協力するような施策があっても良いと思う。

日本人力士の体たらくについて語られるのは久しいが、まがりなりにも国技を標榜するからには、対外的にもその文化を率先して発信するような懐の広さがあれば、体格だけでなく日本の顔としてもその存在感を大いに見せつけられよう。

国技館前の幟

根性見せろ日本人力士

●29系統 担当:境川車庫
葛西橋~境川~水神森~錦糸堀~東両国緑町~浅草橋~岩本町~須田町
荒川から錦糸町を経て隅田川を渡り、神田方面へ向かう系統です。25系統が京葉道路を小松川の方へひたすら向かうのに対し、この系統は南に折れて旧葛西橋の方へ向かっていました。

Originally, written on September 18, 2010