小学校高学年だったかの頃、確か漫画の「日本の歴史」でだったと思う。江戸城の天守台跡の写真があり、それがひどく美しいものに思えた。
大阪城や名古屋城は再建とはいえど、立派な天守が城跡に立っている。地元の小田原城もそれなりに立派だと思っていたけれど、写真で見ても大阪や名古屋のそれは、小田原とは比較にならないくらいに非常に堂々としたものだった。
対して、江戸城の天守閣は、17世紀の明暦の大火で燃えて無くなってしまってからは、今に至るまで建てられることは無かった。ただ天守台の石垣だけが残っているとのことで、今に残ってたら幕府の本城として錚々たる姿だっただろうに、と思う。
東京に出てくるまで、天守台のある本丸に入るのは不可能か、とんでもなく面倒な手続きをするものだと思っていた。中学、高校で誰かが教えてくれれば良かったのに、簡単に見に行かれるとは誰も教えてくれなかった。お陰でいつか見てみたいと言うものの、たどり着くまで何十年か損をした。
そんなだから、東京に居を構えて「簡単に」本丸に入れると知った時の週末は、当然のごとく大手門に足を運んだ。
かつての本丸は皇居東御苑と呼ぶ。
入場の手続きは至って簡単。門まで行って簡単な荷物検査の後、入場札を受け取るだけだ(現在はコロナとかで渡していない)。入場口は丸の内側の大手門、一ツ橋側の平川門、国立公文書館側の北桔梗門の三箇所。
大手門側からであれば、入ってすぐに皇室カレンダーとかを売っているお土産屋を過ぎ、幕府時代に伊賀者とか甲賀者が構えていた百人番所前で中之門を通り、坂を登ると本丸にたどり着く。今はとても広い芝生の広場となっているが、江戸時代にはこの広場を埋め尽くすように殿中のお屋敷が建っており、西側の奥には赤穂浅野の刃傷で知られる「松の廊下」などがあった。今は綺麗な更地となっているので往時を偲ぶには難しいが、南の隅には天守閣がわりとされた富士見櫓がわずかに残っていて旧幕時代を偲ばせる。その広い芝生の向こうに、件の天守台が立派に構えている。
天守台は、子供の頃に図鑑で見たように美しい石垣組だった。
ここに五層の大天守が聳えていたとのことだったが、高い建物などない当時のこと、恐らく相当な遠方からも見えたことだろう。九段の高灯籠が房総沖からも見えたとの嘘みたいな話があるが、東京スカイツリーと東京タワーが群馬の赤城山からつい先頃に撮影された写真があるところを見ると、こちらの天守なら房総から見えたとしてもおかしくはない。
広大な芝生の広場には家族連れや友人連れなどが、晴れた日ならばシートを開いて思い思いに日向ぼっこをしている。隣に大手町のビル群があるけれども、あまりにも園が広過ぎて圧迫感は全くなく、空が非常に広い。芝生は綺麗に刈り込まれ、園内の道も場所柄かゴミなどは落ちておらず、静かでとても気持ちが良い。同じような新宿御苑では入場料を取っても人が相当に寝そべっているところを見ると、どうしてこの本丸広場に人が多く無いのかが不思議で仕方がない。
恐らく知らないのだ。
東京日帰りスポットみたいな本はいくらでも出ているが、そういえばこの東御苑が紹介されているのを見たことが無いような気がする。ペット同伴禁止とか飲酒不可とかの決まりはあるけれども、それが大きな制約になるとも思えない。
結局大きく告知されていないこともあって、単にみんなが知らないだけなのだろう。そのような意味では、そぞろ歩きスポットとして東京で一番の穴場じゃ無いかと思っている。
夏や冬は遮るものが無いので厳しいが、春秋の穏やかな日であればこの芝生広場に寝転んで、日がな時間を過ごしてみることも多い。
ちなみに我々が皇居の敷地に入る方法はいくつかある。
東御苑は上に記した通り。
所謂、我々が「皇居」として認識をする西の丸に入る方法。
何かと目にする宮殿の前まで行くのには、正月の一般参賀、もしくは事前予約と平日の休みが必要だ。ただそれなりに手間をかけて行くだけの価値はあり、桔梗門より宮内庁と宮殿を観光して二重橋を渡ることができる。皇宮警察の監視付きだが社会科見学としてはこれが一番面白い。
自分が参加した時は、外国人観光客が私も入らせろ、みたいに予約無しで警護に掛け合っていたが、門前払いされていた。他の国だといきなり訪れて観光できる所もあるが、日本は厳しい(そのような点ではロシアとかはサービスが良く、クレムリンは観光に開放している)。
上皇の代では桜と紅葉の時期に乾通りの通り抜けをやっていて、半日潰す覚悟で大行列に並びながらも、坂下門から北の乾門まで美しい景色を愛でることができた。今はコロナ禍のためかそれともやる気が無いからなのかは分からないが、開放されないでいる。
あとはあまり大っぴらにされないが、「勤労奉仕」と言う形で、皇居を掃除に行く団体を組むことで、敷地に入ることはできる。この方法では入った経験は無いが、手順を踏めばいけるらしい。
いずれの方法も積極的な告知があるわけでは無いので、知らない人は知らないままになってしまいそうだが、ある日の一日を皇居の参観にかけてみても案外に楽しいのでは無いかと思う。
都心のお休み所「皇居東御苑」
●2系統 担当:三田車庫
三田~御成門〜日比谷公園~神田橋~一ツ橋~神保町~後楽園~東洋大学前
朝夕2本づつ走った系統。臨時系統に分類されてもおかしく無いのですが、日比谷通りから白山通りに抜ける幹線系統なので、何がしかの歴史的な経緯がありそうです。とは言うものの、西新橋から北側は35系統と同一であるので、その南側の需要は5系統と37系統で賄えると考えれば、この本数で適切であったのかもしれません。