第三十八話
台所の商売~36系統の風景

漁船から水揚げをされる訳でもないのに日本有数の魚河岸である築地市場。日本全国から集まる産物を扱うその姿は、まさに東京の台所と言うのにふさわしい。

昨今豊洲への移転が騒がれているが、有害物質があちらの方から出てしまっているのでその話は頓挫したかと思いきや、ここに来て前に進むことになったようだ。

豊洲から台場を経て新橋を結ぶゆりかもめに「市場前」という駅がある。勿論ここに市場が移転する予定だからこのような名前が付いているのだけれど、今は何にもない埋立地のど真ん中にポツリと駅が立っている。何にも無いので乗降客がいるのを見たことがない。こんななら駅をつぶさないまでも電気代が勿体ないから通過させれば良いのにとも思うのだが、何処までも停車し続けるのは、市場移転の話を消さないという東京都の執念か。

早朝からセリを見学しに築地まで出る程に健康的ではないけれど、東京というより、日本を代表する市場が築地市場だ。朝の喧騒を過ぎた10時過ぎでも多少の賑わいは残っていた。

場内の店がひと段落した後でも市場の北西にある「場外市場」という商店街は、観光客でいっぱいだ。同行してくれたガイド氏の話では、ここにある全ての商品が築地で取引されたものである訳ではないとのことだけれど、きっちり店を選べば「場内」直送の産物を手にすることができる。観光客料金なのかそれともこれが本来の物価なのかわからないが、海産物は必ずしも安くないような気がするが、東京でしかも小売の魚屋みたいな位置付けということを考えれば、まあこんなものかもしれない。

卸も行う魚河岸の某若大将の話では、食生活とは賞味期限がうるさく言われてからおかしくなってきたとのこと。鮮度の高い生モノは逆に危ない部分もある訳で、それを了解して本来は食べるものだとの講釈をいただいた。新しければ当たらないというものでもないし、古くても食べられるものもある。本来は食べる方がその期限を決めるべきもの、ということだ。だから食べる方も与えられるだけでなく自身の感覚を磨き続けなくてはいけないと、お説教をもらった。

築地と言えば魚河岸で、市場の大きな範囲を占めているけれども、魚以外にも野菜の取引もされているし、市場というだけあって、金物や卵焼きなどを商いとする店もある。場外、場内共に、有名な吉野家一号店の他にも食べ物屋もひしめきあっている。やっぱり値段はそんなに安くは無いとは思うが、値段だけでは語れないものもある。
長靴を履いている人が多い店を選んでその雰囲気を感じるのも、築地の楽しみの一つだろう。

ここが東京の台所「築地市場」

ここが東京の台所!

●36系統 担当:錦糸堀車庫
錦糸町駅前~住吉町二丁目~森下町~浜町中ノ橋~茅場町~桜橋~築地
隅田川を渡る新大橋は「新」とは付くものの歴史は江戸時代に遡り、隅田川に架けられた3番目の橋で、「新」とは大橋、つまり今の両国橋に対する「新」と言う訳です。パリ・セーヌ河にかかる「Pont neuf」も「新しい橋」の意ですが、現代のパリにあるセーヌ河を渡る橋としては最も古いもの。このような名前にこだわっていくと、街の新しい顔がまた見えてくるような気がします。

Originally, written on November 20, 2010