第二十六話
中央改札の大壁画~21系統の風景

上野駅が何処か薄暗いような雑然とした印象を持つのは、寒い土地からの列車が到着するターミナルとしての印象を、東京やそれ以外の暖かい地域の人達が作った「イメージ」として色々なところで書かれてきたからだと思う。同じような厳しい地域は西の方にもある筈だが、東京駅がそのような印象で書かれてこなかったのは、日本人が寒さとか雪とかに持つ本質的な印象(それらは上野駅から向かう東北や北海道、上越の印象でもある)をこの駅に重ね合わせるからではないか、とも思えるのだ。

上野駅を上野駅たらしめるのは、13番線から続く特徴的な行き止まり式ホーム。それに被さるように位置する高架ホームによって空が隠されて、日がな暗い空間を形作っている。かつてまだ新幹線が来ていない当時、主にこの行き止まり式ホームには東北、常磐、上信越、北陸方面の長距離列車が発着した。今でも13番線と14番線の間には中途半端に短いホームがあるが、これは長距離列車に連結された荷物車や郵便車の積み込みの為に利用されたもの。上野が北方への拠点として活動していた時の名残である。

この行き止まり式ホームを南に進むと中央改札口となる。長距離列車から吐き出された多くの旅行客はこの中央改札を通って外に出たり、往時なら都電に乗り込んだか、地下鉄に潜ったりしたのだろうか?それとも右手に続く階段を上って山手線や京浜線のホームに進んだのだろうか。今、中央改札の外は「atre」の綺麗な店群が営業していて明るい雰囲気だが、よくよく見ると建物そのものが大きく変わっている訳ではない。ハードロックカフェやつばめグリルがある方のレストラン街も、アーチを描いた柱が美しい。この駅を模して関東州の大連駅が造られたのは知られた事実だが、駅そのものが持つ雰囲気は往時も今もそれ程変わっていないのかも知れぬ。

中央改札の上に書かれた大壁画も上野駅を形造る大切な要素である。昭和26年に描かれたというこの壁画は、上野駅を写した写真にもよく出てくる特徴的なもの。描かれて60年も経つのだけれど、いつ見ても新しく見えるのが不思議。駅舎と商業ビルが一体となっている場合はまだしも、駅単独でこのような大掛かりで立派なモニュメントを持っているのはあまり記憶にない。それが銅像とかでなく華やかな絵画であるから余計印象的だ。コンコースから中央改札に向かうとこの壁画を望むことになるが、この下にある長距離列車の地平ホームと合わせて旅行客が見た光景は、出発特有の興奮か、去来する東京での出来事か、それともこれから向かうであろう故郷の印象か。「自由」と名付けられたこの壁画は長らく多くの旅行者を見てきたのだが、長距離列車のターミナルとしての機能が薄れてしまった今、遠方への想いを持つ旅行者を現代に見下ろすことは少ない。

長距離へは僅かに札幌行、青森行の寝台列車と常磐方面の特急が発着するだけで、新幹線の乗客は東京駅へ移ってしまいつつある中で、他の駅とは違う歴史と人間そのものを背負った特別な駅であることの意味を、往時の雰囲気を今に伝えるグランドコンコースとこの壁画に保ち続けていって欲しいと思うのだ。

上野駅たらしめるグランドコンコース

グランドコンコース~行きかう人もまた旅人なり

●21系統 担当:三ノ輪車庫
千住四丁目~千住大橋~三ノ輪橋~下谷二丁目~上野駅前~御徒町駅前~岩本町~小伝馬町~水天宮前
北千住から隅田川に架けられた最も古い橋である千住大橋を渡り、上野駅を経由して昭和通りを抜ける路線でした。山手線の内側でなく人形町の方に向かうのは、その辺りもかつて賑やかであったことの名残です。

Originally, written on August 28, 2010