第十五話
故郷のターミナル~28系統の風景

同じ東京のターミナル駅でも東京駅と上野駅は雰囲気が全く違う。東北や上信越からの新幹線が東京駅に集まるようになってからも、上野駅を中心とする上野界隈は今でも雑然とした雰囲気が残っているが、東京駅は昔から都会的な雰囲気=言葉を変えればスーツをきっちりと決めたネクタイの駅のイメージが、空気に漂っているような気がするのは考え過ぎだろうか。

今の時代、東京駅の方がどちらかと言えば「お国」の雰囲気が漂っていていい筈だ。発車時刻案内を見れば、大阪、広島、博多などの西方各地から、八戸、仙台、秋田、山形などの東北各地、新潟、長野の上信越の駅が並んでいる。日本でこれだけ地域満載の案内が出る駅は他には無い。それでもこの駅に各地の香りが感じられないのは、それらの地域とこの駅を結んでいるのが新幹線であり、技術の粋を集めた高速列車が実現した時間的距離の近さによって各地域が結ばれているのを、無意識の内に体感しているからかもしれない。
駅が単に丸の内というオフィス街にあるからというだけではない。
畢竟、この駅から旅情というものが薄まり、速さと効率が支配する現代的ターミナルをこの駅に見るのは至極当然のことなのだ。

東京駅にも上野駅と同じように各地の空気を持ってきていた時代があった。子供の頃東海道線沿線に住んでいたので、東京発の寝台列車を見る事はごく当たり前のこと。「さくら」「はやぶさ」「みずほ」「富士」「あさかぜ」の九州方面、「瀬戸」「出雲」「紀伊」などの西方各地、そして関西在住時代にはよく乗った大阪行「銀河」など、青い列車が何本も西に向けて走っていた。
本来ならこれらの列車から感ずる各地の色を東京駅に感じても良さそうなものだが、今に至るまでその気を見ないのは、前に書いた都会的雰囲気が充ちているのと、私にとっては長距離列車の駅というよりも神奈川の地元とを結ぶ近距離駅の感覚が強いからかもしれない。

とは言っても山手線や京浜線、中央線のホームと違い、東海道本線のホームに立てば「さて行こうか」と気構えるところもある。同じ山手線の家の最寄り駅である目白や池袋とはそもそもの感覚が違う。旅情とは異なるけれど、また各地への寝台列車は無くなってしまったが、東京駅は今でも遠方に向かう列車の出発する駅であり、私の中では生活駅とはなり得ないし、またなってしまってはいけない駅でもある。
この駅から出る列車は、私が知っている、過ごしてきた地域へ向かう列車である。上野駅は自分にとっては未知の地域へ向かう駅だが、東京駅は既知の地域へ出発する駅だ。逆にひょっとしたら東北や上信越方面から来た人であれば上野駅が「既知の駅」で東京駅は「未知の駅」と感じるやもしれぬ。

私は東海道本線沿線で育ち京阪神で学んだ。

それらの地域とを結ぶ東京駅は、自分の中でも特別な感覚を持つ駅としてこれからも在り続けるだろう。

もう到着しない急行列車

もう到着しない急行列車

●28系統 担当:錦糸堀車庫
錦糸町駅前~東陽公園前~門前仲町~永代橋~日本橋~丸ノ内一丁目~都庁前
江東区と東京駅を結ぶ路線。今でもこの区間は利用する人が多いようで、永代通りの真下を地下鉄が走るのにも関わらず、都バス東22系統が錦糸町駅と東京駅を同経路で結んでいます。

Originally, written on June 19, 2010