第六十七話
目白御殿の遺産〜15系統の風景

近所にあるフランス料理だか、イタリア料理だかの洋食屋。店名はフランス語で給仕する料理はイタリア料理という店である。
元々はフランス料理を出していたらしいが、いつだったかにイタリア料理に衣替えをしたとかしないのか。料理とワインをしっかり出すお店で、普段使いとしてはワンランク上になるが、かといって敷居が高いと感じる価格ではなく、けれど誰かを連れて行けるほどにクオリティは良く、(また大事なことだが、店の人は全く威張っていなく)高級店ではないが言ってみれば何かのお祝いや人の招待で利用できるような、座っていてとても落ち着くお店である。
口コミサイトで大して盛り上がっていないのは、みんな知らないのかそれとも行くのに不便なのか。そんなに繁盛しているようには思えないが、常連客はしっかりついているようだ。立地的に新規を手広く取り込むのではなく。地域でしっかりお客さんを掴めれば良いのだろう。

こちらのお店のオーナーは田中真紀子さん。かつての衆議院議員。言うまでもない人である。けれどアクの強い、皆さんご存知の印象からはレストランの雰囲気は程遠い。あの方からどうしたらこのようなレストランが出てくるのか不思議だが、人柄にはいくつかの顔があるのかもしれない。それとも、金だけ出して店には口を出さない方針かもしれない。

かつて目白御殿と呼ばれ昭和の政治史に出てくる田中さんの自宅は、お店から日本女子大の方に少し進んだところにある。父親が亡くなった時に敷地を小さくして一部は文京区の公園に変わったが、それでも大きな家であることには変わりない。門柱のところにはかつて警備の警官が立っていたであろう跡なども残っていて、かつての時代も感じられる。

田中角栄が政治の中枢にいた時、また事件によって表から去り「今太閤」と言われて権力を振るった時、その往時はこの目白台の屋敷に立派な車が出入りしたらしい。

昭和を動かしたこの家の元主人は既になく、今の主人も政治の舞台から去った。
門構えの立派さが往時を今に伝えるが、ひっそりとしていて人の出入りもあまり多くはないようだ。その一方、御殿の敷地が一部に使われた公園では、子供達が楽しく遊んでいる。

著名政治家の遺産が子供達の笑顔に変わっていると思えば、ご本人達も嫌な気分はするまい。近所に住む大人としては、一方の遺産であるレストランに足を運んで、美味しい料理をいただきながら気分のよい時間に預かることとしよう。

 

●15系統 担当:早稲田車庫
高田馬場駅前~早稲田~江戸川橋~飯田橋~九段下~小川町~大手町〜日本橋〜茅場町
昭和三十年台の最盛期、最も乗降客が多かった記録が残る系統です。
新目白通りの早稲田界隈は思い切り地下鉄から外れ、バスと都電しか移動手段がありません。そんな地域事情もあってか、高田馬場と九段下を結ぶかつての15系統をトレースする都バスは、途中で本郷の方へ曲がる旧都電39系統のバスと並んで乗降客も多いです。