第三十九話
夕焼けの階段~40系統の風景

日暮里駅を西側に降り七面坂に出た所で、急に風景が開ける。眼下には谷中から千駄木に続く住宅街が広がり、向こうには根津や弥生、池之端の中小ビル街とか住宅街とかがごっちゃになった地域を望むこの場所は、空が高く広がるところだ。

商店街に下りる階段の手前には「富士見ホテル」の古ぼけた看板が立っている。看板の案内に沿って細い路地を進んで行くと、突き当たりの奥まったところに「ホテル」とは聞こえがいいけれど、見るからに安宿としか言いようがない富士見ホテルがある。この辺りにはかつてこのような旅館が多くあったらしいが今では減っていく一方で、この富士見ホテルも日本人というよりも外国人客が集まるようである。

階段の下に進む商店街は谷中銀座。近頃人気のある「谷根千」でも特に人が集まる商店街である。

別に何がある訳ではない。
時代に取り残された小さな商店街で、総菜屋とか魚屋とか所謂普通の店が建ち並ぶ界隈。メンチカツが頻繁にテレビに取り上げられるということで当の店には行列が出来上がっているが、店の前に「テレビで紹介されました」的な写真やら雑誌の記事がペタペタ貼ってあるところを見ると、商売っ気が強いというか、ミーハーっ気が出過ぎたというか。まあそのような店がこの界隈にはちらほらと営業しているのである。別に味に自信があれば今時タレントの力を借りなくてもと思うのは、天の邪鬼というものか。何はともあれ人を呼び込むことが重要なのかもしれない。

こんなごく普通の商店街に人が集まる、つまり人気が出るのも今の時代なのだろう。

少し前に昭和ノスタルジーが流行ったことがあり今でもその風は多少なりとも吹いているようで、私が住む雑司が谷界隈などその典型だから、鬼子母神と都電を中心に週末になると観光客と思われる人達が路地をよく歩いている。

雑司が谷にしろ谷中にしろ何がある訳ではない。悪く言えば時代に少し取り残されただけなのだが、マスメディアやインターネットを通じて得られる「デジタル社会」「情報発信街」とは異なるその「非日常」を感じに人が集まってくるのだろう。勿論昭和半ばの生活をやってみろと言われれば今更出来ない(耐えられない)のだが、これらの地域の持つ雰囲気が、ここに集まる多くの人達が持つ本能的空気であり浸りたい生活ペースなのかもしれぬ。

七面坂との別れから谷中銀座に下りる階段を「だんだん」と言う。
この辺りはNHKの連続テレビ小説の舞台にもなった所である。

ここから見る夕焼けは美しく、この商店街はそれを売りにしている程だ。東京メトロのCMにもなった。夕焼けとはノスタルジックを表すにはピッタリな風景だ。それは谷中そのもののイメージでもある。

夕暮れの谷中界隈

夕暮れの谷中界隈

●40系統 担当:神明町車庫
神明町車庫前~団子坂下~上野動物園前~上野広小路~須田町~日本橋~銀座四丁目~銀座七丁目
谷根千を突っ切り上野公園の脇を通って上野松坂屋に出、中央通りをひた走って銀座に至ります。不忍通り沿いは低い建物が多いと思いきや結構ビルが建ってしまっており、東京大学を囲むようにして佳い名前の坂や町名が続くのですけれど雰囲気は私的には?です。残念。

Originally, written on November 27, 2010